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契りおきし ― 字余り。「契りおき」は、約束しておく。「し」は、過去の助動詞「き」の連体形。千載集の詞書によると、この約束は、藤原基俊の息子の僧都光覚が、興福寺の維摩会の講師になれるよう藤原忠通(法性寺入道前太政大臣)に頼み、忠通が「私に頼りなさい」と返答したこと。 |
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させもが露を命にて ― 「させも」は、さしも草で、よもぎのこと。「露」は、恵の露。「て」は、逆接を表す接続助詞。 |
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あはれ今年の秋もいぬめり ― 「あはれ」は、慨嘆を表す感動詞。「も」は、強意の係助詞。「いぬ」は、「往ぬ」で過ぎるの意。「めり」は、婉曲を表す推量の助動詞。 |
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維摩会の講師の任命権者は、藤原氏の氏の長者、忠通であった。たびたび息子の光覚が選に漏れるので、基俊が恨み言を言ったところ、忠通は、「なほ頼め しめじが原の させも草 わが世の中に あらむ限りは」という歌の「しめじが原」という語を用いて、善処を約束した。ところが、またしても光覚は選に漏れた。これは、その私怨を晴らすために贈られた歌。 |