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めぐりあひて ― 字余り。「めぐりあひ」の対象は、表面上、「月」であるが、新古今集の詞書から、実際は、幼馴染の友人(女性)であることがわかる。 |
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見しやそれともわかぬ間に ― 「し」は、過去の助動詞「き」の連体形。「や」は、疑問の係助詞で、結びは省略。「それ」は、月。実際は、友人を重ねている。「と」は、引用の格助詞。「も」は、強意の係助詞。「わか」は、カ行四段の動詞「わく(分く・別く)」の未然形。「ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。「に」は、時を表す格助詞。 |
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雲がくれにし ― 「雲がくれ」は、「月が雲に隠れる」の意であるが、実際は、「友人がいなくなる」ことを表す。「に」は、完了の助動詞「ぬ」の連用形。「し」は、過去の助動詞「き」の連体形。 |
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夜半の月かな ― 「夜半」は、夜中。「かな」は、詠嘆の終助詞。『新古今集』では、「夜半の月かげ」となっている。「めぐる」と「月」は縁語。 |
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この歌は、詞書がなければ、その真意がわからない歌の典型である。歌を見る限り、“月”が主題であるように思えるが、実際は、幼馴染とのつかの間の再会を詠っている。当時、紫式部と同程度の中流貴族階級の女性は、受領として赴任する父や夫とともに地方に下ることが多く、この歌は、そうした状況に伴う再会の喜びと別れの寂寥感を詠み込んでいる。都人にとって、地方は異境であり、京の価値観が通用しない別世界であった。紫式部も、その例外ではなく、越前守となった父に随って越前(福井県)に赴いたものの、現地の生活に耐え切れず、一年後に単身帰京した。 |